『無明の果て』

送別会は一番はじめに顔を会わせた店に決まり、何よりも全員が参加出来ると、正幸さんから嬉しい連絡も入った。



涼は元気にしているだろうか。


そしてその日、私は一行の真の言葉を聞くことになった。



私達が到着した時、すでに他のメンバーは顔を揃え、涼も一番奥の席で穏やかに微笑んでいた。



お互いに、遠くからうなづいただけで、言葉は交さなかった。


そして会長の挨拶に、みんなグラスを掲げた。


「送別会と言うより、激励会です。

不安だらけのこいつに喝を入れてやって下さい。

では、将来の社長に乾杯!」


女の子からは花束を贈られ、一行はそれを抱えたまま、一気にグラスを空けた。



「ここで飲むのがうまいっす。」


あっ、一行の「っす」を聞いたのはいつ以来だろう。



春から、季節は次の景色へ移り、また違う季節へと永遠に生き続ける。



一行は言った。


「大人になるということが、少しずつ身に染みてきました。


気付くのが遅いと飽きれられるかもしれませんが、不安より楽しみの方が増えてきたのも事実です。



こうして、みんなの前で大見得をきった手前、早く一人前になった自分を見せられるように頑張ります。

それから…」




拍手の中、それを抑えるように言葉は続いた。



「麗子を、どうかよろしくお願いします。

よろしく…」





一行の心、私の心。




ふたつの心が 泣いている。