『無明の果て』

栄転のお祝いを兼ねて送別会はどうだろうと、久しぶりに正幸さんへメールを送った。


私達の報告をしたきり、何度か近況を伝えあったりしたけど、なかなか同じ時を過ごす事が出来ないままでいた。


元々は一行が連れてきた彼に、私から転勤の報告をするのも変なものだけど、またあのメンバーで、明るく祝ってあげる方が、一行には似合っているだろうと思うのだ。



“会長様

ご無沙汰しておりました。

この度、一行が転勤することになりました。
大阪栄転祝い、及び、送別会を執り行いたく、ご都合は如何かと。”


そんなメールに、正幸さんからすぐに返事が返って来た。



“聞いていました。
色々 想うところはあるでしょうが、楽しくパッと送ってあげましょう。

素晴らしい前進です。

段取りは会長にまかせなさい!”


力強い、頼りになる先輩を持って、一行は幸せものだ。


一行が心配だと言った私の気持ちは、両足を少し広めに開いて、地面に食い込むほど踏ん張りをきかせ、一行が見せた澄んだ涙を抱いていれば、どんな事にも耐えていけそうな気がする。



闘うのは、自分対自分なのだ。



元カノと競うことや、未来の結論に捕われる事など、初めから後ろ向きな考えだと、今頃になって気付くなんて。



二週間のうち、空いた時間を見つけるのは難しく、それでもやっと送別会の段取りが決まった。



一行は何度も大阪へ出向き、生活の場所も決め、現実としてのこれからに、期待を持って進んでいるように見える。


たくましくもあり、だけどそれは、私を頼らず生きている一行を、寂しく感じる時でもあった。




「一行、ここにあるものは荷造りしておくけど、一行のマンションは大丈夫なの?」



「何にもしてないよ。どうしよう。」



「仕事帰りにやっといてあげるわ。
引っ越しまで一週間ないもの。」




いよいよその時が迫って来ている。