『無明の果て』

ワインを開け、グラスを掲げ、

「それでは、ご栄転される鈴木一行様より、ご挨拶を頂きます。」


「うぇ、うそ。
麗ちゃん、勘弁して。」


「こんな場面もあるかもよ。
練習、練習」


じゃあと一行は話し出した。


「突然の転勤で動揺を隠せませんが、社会人としてのステップアップだと信じて、新しい土地で頑張ってみようと決意しました。

待っているもの、置いていかなくてはならないもの、後ろ髪を引かれること、たくさん有りすぎて、すぐには整理しきれませんが、幸い近くに良い見本のような人もいますので、心配はしていません。
ただ、麗ちゃん…」



途切れた言葉に、私は顔を上げ一行を見た。


必死でこらえようとしている涙は、耐えきれず頬に流れ落ちた。



私達の運命が、いつかたどり着こうとするその時まで、一行の涙は私の力になる。



「一行、立派な挨拶だわ。
すぐに追い越されちゃいそうね。」



さっき言いかけたのは、なんだろう。


一行、大阪へ行こうというのは、プロポーズじゃないんだよね。