『無明の果て』

その日は朝から一行の姿を見る事はなく、私は私で次々とこなさなくてはならない仕事に追われ、人事移動はすぐに話題の中心から外されていった。



それでも、後輩の女の子達は



「先輩、お昼一緒にいいですか?
落ち着かなくて。」



「了解です。
私も落ち着かないのよ。
ありがとう。」



嬉しいお誘いをしてくれる若い女の子達に、素直に相談してみるのもいいかもしれない。


あのコンパがなければ、こんな出会いもなく、きっと肩を怒らせ、歩幅の広い足取りで、動き回っていたに違いない私を気にかけてくれているんだから。



そして後輩から誘われる喜びも知らぬまま、可愛いげのない女で四十を迎えただろう事を思う時、一大決心をし、自分自身を見直す事がやはりあの時必要だったのだと、改めて思うのである。




「先輩、ついて行かないんですか?
でも会社が放さないですよね。

先輩に辞められたら大変だもの。」



「私の代わりはいくらでもいるわよ。
長くいれば、こんなとこまで来ちゃうだけよ。」



「そんなことないですよ。
鈴木くんだって、だから先輩を選んだんですよ。
失礼かもしれないけど、普通は私達の方に来ますって。」



「あら、誉めてるんだかどうだかよく解らないけど、そうなのかな。」



「会社辞めてついて行っちゃえ。」



そんなドラマチックな盛り上がりが、私の人生に訪れるとは考えもしなかったけれど、今がその時なんだろうか。



「ねぇ。
彼はどう思っているかな。
新人では大抜擢でしょ。
喜んでるよね。」



「う~ん。
微妙ですよね。
先輩の事がなければ、悩むことはないわけだし、でもチャンスだって思いますよね、男だったら。」



そうなのだ。


一行が足踏みをして戸惑うような男なら、私はこの先も隣で微笑んで生きて行く事はきっと出来ないだろう。



「私が彼について行く事はないわ。」



「先輩、そう言うと思いました。
だけど、本当にいいんですか。」



「決めたのよ。」



“栄転おめでとう”

と一行にメールを入れたら、すぐに