『無明の果て』

「涼くん、ありがとう。
仕事頑張って。


きっと一行は私が話をしなくても、彼なりの答えを出して次に向かうと思うの。

一行は…

ごめんね。

駄目だわ。

涼くん、先に帰って。」



どうしても、目頭が歪む。



「帰れないですよ。

麗子さん、別れるつもりですか。」



「わからないの。
一行の仕事を考えたら、頑張り時は今かもしれないでしょ。

邪魔は出来ないよ。

私が一番わかってる事じゃない。
ついて行くわけにはいかないわよ。

だけど、元カノが現れたり、私のこれからを一行がどう考えているのか、すごく不安なの。」




きっと一行が戻るのは、遅い時間になるだろう。




「涼くんに聞いてもらえて良かったわ。

一行には内緒にしておいて。」



私の長い旅の終わりが、どんな結末を迎えようとも、正直な生き方ばかりを選ぶわけにはいかない時もあるのだ。


それが後に、罰となって私の元に降りかかろうとも。


“素敵な演奏だった”

と一行にメールを入れて、外に出た。



“二次会で遅くなります。

心配無用”



一行は涼の事には触れなかった。



「麗子さん、これっきり会えないってことはないですよね。

運命ってのが決まってるのなら、今日の事もそうかもしれないじゃないですか。

もう少し、付き合って下さい。」




一行、タイミングってキーワードが、こんな時に限って悪さを起こす。



何も起こりはしない。


何も起こり得るはずはない。