『無明の果て』

いつか、私達の恋が、幸せな結末を迎え、そしてその日がそう遠くない将来であるようにと、心から願っていた日々は、また私に辛い選択を迫る大きな難題を運んで来た。



涼は、私がどんな気持ちでどんな暮らしをしているのか、尋ねることはしなかった。



ただ、

「淋しくなるなぁ」

と言ったきり、しばらく言葉を探しているのか、身じろぎもしないで私に言った。



「麗子さん。

麗子さんは淋しくないですか。」


そんなはずは無いと知りながら、その質問はキツイよ。



「涼くん、仕事は楽しい?」



「楽しいのかな。

まだ必死でそんな余裕ないですよ。
叱られてばっかりだし。」



「私も新人の頃は家に帰るとヘトヘトで、続けていけるかすごく不安だったよ。

その続きのまま、今まで来ちゃったけど、仕事はね、面白かったの。

こんな歳まで独り身で頑張る予定はなかったんだけどね。」



二人で、私の仕事、涼の仕事、未来、夢、希望、幸福、そんな話をしながら、初めて一行に会った日を思い出していた。


「言っちゃおうかな。
一行にも話してないこと。」



「なんですか。
怖いなぁ。
緊張してきた。」



「夢を見たの。
朝にね 涼くんによく似た男性とぶつかって、会社に行ったらその人が新入社員だったって、ベタな話。

運命だわなんて思ったりして。

実際にはその新入社員が一行だったってわけ。

涼くんが合コンに遅れて来たとき、本当にびっくりしたんだから。
その夢の青年にそっくりで。」



「へぇ、じゃぁあの日の前に俺は麗子さんと夢で会ってたんだ。」


「涼くん、綺麗だから夢の中でも私緊張してたの覚えてるよ。

涼くんは運命とか信じる?」



「信じてみたい気もする。

だけど、運命だからって諦めたり、簡単に割り切るのは好きじゃないですよ。


納得のいかない事なら、覆したい気持ちも出てくるんじゃないかな。

こう見えても、結構ガンコですよ。

夢で運命だって思ったのは、本当だと良かったけど。」



涼は独り言のように言い、優しく微笑んだ。