自分のご褒美にと、高価なブランドものを買ったりする話を見聞きするけど、どうも私にはしっくり来ない行動に思える時がある。



その事自体を否定するつもりなどないが、自分で自分に何を買い与えても、私にはさほど高揚する気持ちは生まれてこない。



それよりも、慌ただしさの境目、不意に差し出される温かいコーヒーの方が嬉しかったり、澄んだ夜空に浮かぶ控え目な星々を美しいと見上げたりする時の方が贅沢に思えたりするのだ。




綺麗ごとのようだけれど、それは、誰かに認められている喜びと、受け手でいることの安堵感みたいなものが、あるからかもしれないと思っている。




まぁ、比べる対象があまりに違い過ぎるけど。




一行のプレゼントは、そんな事まで見透かしているようだ。



一行と出かける前に片付けておく仕事は、大きな壁のように立ちはだかっているけど、彼の贈り物は、それをはね退けるくらいの意味のある緩やかな時間になるはずだ。



「パーティって私が行ってもいいものなの?」


「大丈夫だよ。
紹介するつもりでいるんだけど、麗ちゃんは嫌かなぁ。」


「その彼女にも?」


「そうだよね。

そこだよなぁ。

麗ちゃん、やっぱり無理かな。」


「紹介はいつかして。
演奏だけこっそり聞きに行くから。」



私の知らない一行の友人だちは、歳の離れた会社の上司と聞いただけで、イメージを膨らませ、興味深々でいるだろう。


そこに、どんな顔をして登場しろと云うのか。

やはり無理だ。


「その彼女は気にしないの?

私がその立場ならイヤだけど。」


いや、元カノが涼からそれを聞いた時点で、今がなんでもない付き合いでも、心穏やかではないだろう。


実際、再燃する可能性がないと保証するものは、私が信じる気持ちしかなんだろうし、起きていない心配は無用だと、自分に言い聞かせるくらいしか、私にやれる事は思い浮かんでこない。