『無明の果て』

「遅くなったけど、ケーキ食べようよ。」


歳が増えたとたんに、余計な引っ掛かりも増えた気がしている。


「ケーキ入刀なんてしてみたりして。

麗ちゃん、ここ持ってみる?」


一行はこういう事を、楽しそうにやってしまうけど、私には結構ドキドキするシーンだということに、気が付かないものなの?



何をするにも、ニュートラルに戻る余裕のある感覚を忘れずに来たつもりだけど、私の履歴を書き換えるくらいの何かが迫ってくる気がするのは、考え過ぎだろうか。


人生の“のりしろ”のような、余分ではない大切な役割を持つ宝を、たくさん持っていたはずなのに、今の私はなんて気弱なんだろう。



一行がきっと恥ずかしげにバースデーケーキを頼んでいただろう姿を思い浮かべれば、そんな憶測も吹き飛ぶといったとこだけど。


今日は、多すぎるロウソクでカットしにくいケーキを二人で味わいながら、面倒な話しはやめて、穏やかな一日を始めなくちゃ。



「麗ちゃん、プレゼントがあります。」


「なに? なに?」


「涼にそんなのもらっちゃって、出しにくいなぁ」



「なに?

ダイヤモンド?

マンション?」



「あたり!

んなわけないでしょ。
俺の給料知ってるくせに。」



一行が差し出したものは、封筒だった。



「ラブレター?」



「そうとも言えるけど、早く開けてみて。」


中には、温泉ホテルと観光スポットのパンフレットが入っていた。


「次の週末、予約したから。」



そのうち行きたいねと、話したばかりだった休暇を、ちゃんと現実にしてくれるなんて、こういうプレゼントは考えてもいなかった。


「また泣いてもいい?」


「どうぞ、何回でも。」



一行が優しい事を、私は充分に知っているつもりである。


だから、元カノのことをどうこう言う前に、私の心が正直に一行に向かい、愛していく事が重要なんだと云う事を、もう一度ちゃんと思い返してみよう。



「のんびりをプレゼントです。

行けるでしょ。
美味しいもの食べに行こうよ。」