『無明の果て』

一行は何やら、計画を立てているらしい。


私の気持ちも知らないで…


仕事が立て込み、涼の話を出来ないまま、一行との時間がとれない日が続いた。


その間、涼から短いメールを何度か受け取ったが、返信はしていない。


メールには、“また偶然があるかもしれない事を期待して” とある。


チャンスカードは、この間使い果たしていると、メールに書いたが未送信のままだ。





いつからか私は、誰もいなくなった会社で、一人外を眺めるのが好きになっていた。



意欲と疲労感の狭間で、キャリアウーマンと呼ばれる事への拒否反応と戦い、泣いた事も一度や二度ではない。


そして、ここから涼への未送信メールを送った。


明日は誕生日である。
39という諦めのしがたい一年がはじまる。


会社を出てすぐ、足が止まった。


なんで?


チャンスカードは無いんだよって、メール読んでないの?



「偶然は待ってられないから。」



涼、レッドカードはどうすればいいのよ。


「さっきメール送ったよ。」


「読みました。」


涼が以前、二股をかけられて、苦しんで、彼女も友達も失った話を思い出した。


そんな場面を、涼は、知らぬ間に呼び寄せてしまうのだろうか。



どうして私で、どうして一行なのか、出会った時には、こんな日が来ることは考えもしなかった。



「麗子さん、怒ってますか。

自分でもどうしたらいいのか、よく解らないんです。

何やってんだか…」


「お茶でも飲む?

でも時間はあまりないの。
それでもよかったら、お話しようか。」


「一行に聞きましたか?
この間のこと。」


「聞いてないよ。
聞くつもりもないし。
聞く必要がないの。」


明日の誕生日まで、ひとりでいたかった。


「そうなんだ。
やっぱりカッコイイなぁ。

わずかな隙間に入り込もうって、姑息な手段では立ちうち出来ないって事ですね。」


「涼くんはさぁ、一行とどんな付き合いをしてきたの?」


ゆっくり歩きながら、涼は言った。