『無明の果て』

その夜遅く、一行からのメールは


”盛り上がっていて 抜けられないので、先に寝ていてください“

というものだった。


ちゃんと連絡をくれる一行だけど、やはり少し疑っている私がいる。


きっと一行は、納得のいく説明をしてくれると期待しているが、目に焼き付いたあの姿は、なかなか消え去るものではない。


わざわざ私を選んでくれた若い一行を、束縛する気はなく、詰めよって責める事など、有り得ない事である。


が、だけど、だけど、である。


嫌な女になりそうな予感がする。


夜中一時を過ぎ、休もうとしたとき、一行からの電話でこれからここへ来ると言う。


少し酔っている声はとても明るい。



「麗ちゃん、これから行ってもいい?」


「うん」


私の気持ちも知らないで。


でも今晩は、ゆっくり休ませてあげた方がいいんだろう。


私の元へ帰って来る人がいることは、幸せなことなんだから。


二時近くになって、やっと戻った一行はそのまま寝てしまった。


私の隣で眠る姿は無防備で、偽りなどどこにも見当たらない。


今日一行がここに来なければ、眠れない夜を一人過ごし、妄想だらけの膨張した構想が出来上がっていたはずである。


朝になり、いつもと同じ道を会社へ急ぐ。

ここからはキャリアの違いが表れる領域だ。

一行は昨夜の事には何も触れていない。


私も聞いてはいない。

でも私は話すつもりである。


一行を見た事ではなく、涼と会った事を。


そして、涼に言われた言葉を、その意味を一行に伝える。


私のこれからは、私の一歩先から手をさしのべ、離さずに歩いてくれる一行を信じて生きて行く事なのである。

一行の眠る顔を見ながら、私の知っているその全てで受けとめる度量を、試されている気がした。



私は一行を確かに愛している。


「一行、今日は私遅いかも」


「わかった。

誕生日まで三日だよ。その日は大丈夫そう?」


「朝から辛い話題だわ。

どこか食事の予約してくれたの?」


「楽しみにしててくださいよ。麗ちゃん」