「二人で歩くのは、初めてだね。」


「ショックだなぁ。

二度目ですよ。
買い物に行きました。
付き合ってもらったじゃないですか。」


「あ、そうだった。
ごめんね。

動揺してるのかな。」


何か別の話題を探さないと、右手と右足が一緒に出そうだ。


「麗子さん大丈夫ですか?
なんで俺といる時に、こんな事になるかなぁ。」


「涼くん、聞いていい?

こんな時、私の行動はどうすればいいのかなぁ?」



まさか走って行って、一行を呼び止めるわけにもいかない。


“誰 このおばさん”

なんて言われたら、高熱にうなされて三日ぐらい寝込みそうである。


一行は私達には気付かず人混みに消えて行った。


確かに学生時代の集まりには違いないだろうが、やはり平常心ではいられない。


「聞けばいいんですよ。
見たよって。」


「前の彼女って、どんな人だったの?」


「大学のサークルで一緒だった娘です。」


「あぁ、バンドやってたって言ってた。」


「そう、ギターとボーカルで、卒業するころは解散してたし、詳しい事は聞いてないから解らないけど、一行から離れて行ったんじゃないかな。」




一行の過去の全てを知りたいとは思わないけど、私の目の前にいる一行だけが、一行ではないのだ。



「一行だって麗子さんと俺が二人でいる所見たら、驚くかもしれないですよ。」



「そうか…」



でも私達は偶然だよ と、やはり釈然としない気持ちが残った。



「麗子さん、もう一軒付き合ってくれませんか?」



涼と会った事を話さなければ、今日の事を一行は知らないままだ。

それと同じように、私が見た二人の事も、一行は私に伝える事はないかもしれない。



わざわざ心の引っ掛かりを生む方へ、進みたくはないはずだと思いたい。



「そうだね。
お腹も空いたし。」



涼とお店を選びながら、私は何をしているんだろうと考えていた。

根拠のない不安の中、涼に救いを求めている。