『無明の果て』

準備は出来た?
忘れ物はない?」


少し興奮して大きな声になっているのが自分でもわかる。



私がアメリカで修得した知識をプレゼンする日が、とうとうやって来たのである。



上手くいくのかどうか、やらないうちから心配するのは止めておこうと思っても、私も彼女達も緊張で顔がこわばっている。




「行くわよ」


「はい」



通い慣れたはずの見慣れた建物も、巨大な壁が迫って来るように思え、私は大きく深呼吸をし、バッグの中の一行の写真に



”お願い、力をください“


と、手をあてた。



すると、廊下の向こうからこちらに向かって近づいて来たのは、今回の仕事を推薦してくれた専務だった。



「来たな」


「はい。
チャンスを与えて頂き、ありがとうございます。
プレゼンが終わりましたら、後でお部屋に伺ってよろしいでしょうか。」


「わかった。

頑張れよ。」



そう言って専務は私に握手を求めた。


それは、会社を辞めると言った時


「頑張りなさい」


と強く握った、あの手と同じものだった。



私の夢はこうして現実のものとなって、でもそれは、日々形を変えて私に試練をもたらし、悩みまた苦悩の時を引き寄せるのかもしれない。



自分で決めたこと。


自分で信じたこと。


信じて、惜しみなく与えたものは、いつか自分に返ってくる。



固く固く、私はそう信じている。





「先輩、上手くいったでしょうか。」



「うん。
どうだったかな。
あんな緊張したの初めてよ。
あぁ~喉がカラカラ。
あ、専務に挨拶していくから、先に戻ってて。」



「わかりました。
私達からもありがとうございましたって、伝えてくださいね。」



「了解」




ひとり専務の部屋へ向かい、ノックをした。


「鈴木です。」



「どうぞ」


すぐにその声は返ってきた。



窓の外を眺めたまま、小池は

「上手くいったか?」

と私に聞いた。