『無明の果て』

一行と絢と三人で朝食を囲み、慌ただしく仕事に出かけ、一行と絢が遊ぶ横で夕飯を作り、賑やかに穏やかに毎日を迎えて…



当たり前の事だよと、笑われてしまいそうな日常こそが、私達には大きな幸せだから、そんな風景の中で暮らす事、それが今の私の夢。



叶いそうで、まだ叶わない夢。



だけどいつか、近い将来、絶対に叶う夢だから、待つ事だって楽しいと思えるのは私だけじゃなくきっと一行も同じだと、そう思っているの。」



麗ちゃん、今すぐその夢を叶えてあげる事は出来そうにはないけど、麗ちゃんの進む道の向こう側にちゃんと僕が先回りして必ず迎えに行くから、絶対行くから待っててください。



僕はまだ若い。


若いという事がそれだけで、沢山のはかり知れない可能性を手にしているんだということを、妻が、岩沢が、小池が、その生きざまで語っている気がする。

そして、失敗だとか、成功だとか、どちらかはっきりとした結果を求め、求められる現実の日々の中で、皆が今日も闘い続けている。

そして、


「来週、会社設立以来はじめてのプレゼンが決まりました。


チャンスを与えてくれたのは、あなたの会社です。」



と、嬉しい報告が書かれてあった。




やるな…麗ちゃん



そして

最後の一枚をめくると


「一行、もし、もしうまくいかない事があっても気にしないで。

やり直しは何度だって出来るんだから。」



それは、新人研修で最初に麗子が僕に言った言葉だった。



この言葉で僕の運命は動き出した。



その後には


「絢が歩けるようになりました。」


と絢の似顔絵がそえられていた。



あんまり似てないけど。



膝に置いた写真を見ながら、ここで抱いた柔らかい身体を目をつむり思い返してみた。




あんな小さな身体だったのに、抱き締めると無くなりそうだったのに…



僕や麗子だけじゃない、絢もまた歩き出したように、父はその前を切り開いて進んで行くんだ。