『無明の果て』

幸せを築くために頑張っているはずなのに、枯れて行く木々の葉のように、誰にも気にかけられず去ってしまうのは悲し過ぎるわ。




私達は離れて暮らしているから、離れて暮らしているからこそ、しっかり伝えあっていかなくちゃいけないんだと、一行の手紙を読む度、何度も何度も自分に言い聞かせているの。



だから、約束して。



私をあきらめないで。


何か伝わらない事があっても、私を諦めないで。



絢が生まれた時に、いつか自分が死んで行く覚悟が出来たと言ったら、一行は分かってくれるかしら。



だからその時まで、私を諦めないでいて欲しいの。




岩沢さんの奥さんは、きっとどこかで、諦めてしまったのかもしれない。



そう感じたのは、読まれる事がないかもしれない手紙を教会に託して、もう一度だけ…



最後に一度だけ、賭けをしたのかもしれないということ。



結果など分からなくても、賭けてみたかったんだとしたら、やっぱり私には寂しく思えてならないの。


岩沢さんも、岩沢さんの奥さんも、一行も私も、後悔のない過去などあるはずもないけど、こういう気持ちを伝え合うために、私の前に岩沢さんが現れたんだと思ってみたいの。



水の中からあがった時、身体に重力がかかるように、どうにもならない不自由は、必ずやって来るから。



そして、ちゃんと私達の所に帰って来てください。」





「諦めないでか…」



今日が辛くても、少しだけ頑張れば明日はきっとやって来る。




もう少しやる気を出せば また次の日が訪れる。



麗ちゃん…



こんな繰り返しでいいのかなぁ…



写真を見ながら聞いてみた。




”それでいいのよ“



木々のざわめきの中から、麗子の声が聞こえた気がした。