一行と手をつなぎ、何も話さず、ずっと歩いた。


何か言うと放してしまいそうな指は、今はとても大切な秘密のようなもの。


「先輩、嫌じゃないですか。」


「嫌じゃないよ。」


「もう少しこのままでいいですか。」


「いいよ。」


一行、私はとっくに気付いていたよ。

はじめから、私を見つめてくれていたこと。

私だって踏ん張っていたんだよ。

気付かないふりをして、仕事仲間のままなら、一行にはその方が意味のある生き方が出来るんじゃないかって。

本気で誰かを愛する事をあんなに待ち望んでいたはずなのに、なぜこんなに切ないの。

なぜ飛込めないのって。


「一行、私ね、どうしていいか解らないの。」


「俺と涼のことですか?」

「違う。

一行は勘違いしてるよ。
涼くんは私のことなんか、何とも思ってないよ。

プレゼント選びながら、何度も一行をよろしくって頭下げられた。
涼くんのこと、一番解っているのは一行でしょう。」


「あぁ、そうかぁ。
俺は駄目だなぁ。
小さい男だなぁ。
先輩に嫌われちゃうかな。」


「私のそばにいること自体、もうずいぶん呆れてるけどね。」


「先輩を見てるとやる気が出て、仕事って楽しいものなんだって言ってる気がして、社会人になったばかりの俺には凄く頼もしかった。

こんな小さな身体の何処に、あんなエネルギーがあるのか、不思議だった。」


負け犬だのと、流行りの言葉に躍らされた昔の私は捨てたはず。


「一行、手を離すよ。」


「ごめんなさい。

やっぱり迷惑っすよね」


人生最大の告白タイムである。


爪の先まで心臓の音が響いてくるようだ。



「一行聞いて。

言うよ。

鈴木一行さん、第一印象から決めてました。
付き合ってください。
よろしくお願いします。」


右手を出し、頭を下げた。

一行は大きく目を見開き私を見つめたまま動かない。


「カッコイイなぁ。

だめ、だめ、先輩、今の撤回してください。」


えっ、死ぬほど勇気だしたのに。