『無明の果て』

「一行へ



そちらの暮らしはどうですか?



少しは会社までの道にも慣れて来ましたか?


元気にしていますか。


私と絢は、とっても元気です。



食事は口に合いますか?



ちゃんと寝ていますか?」




”小学生か“


なんて呟きながら、一緒に送られてきた絢の写真を見ていると、その中に一枚だけ、新しい会社のデスクで微笑む麗子の写真が入っていた。



凛々しく、ただ凛々しく、輝いている。


「一行がくれた手紙を、今日も絢に読んで聞かせました。


絢はちょっとつまらなそうだけど、首をかしげて聞いているうちに、そのまま寝てしまう姿はとても愛らしく、一行の手紙は絢の一番お気に入りの子守唄になっています。



この手紙を、もう何度読んだのか分からないくらいです。



ありがとう 一行。



私がアメリカで過ごした年月と、これから一行が経験する年月は、きっと私達の未来に、予想のつかない何かをまた運んで来るかもしれないけど、ひとつだけ…



ひとつだけ、約束して欲しい事があるのよ。



私がいつか、一行より先に死んだら…



そんな時が来る日まで…



こんな事を書いたら
一行は怒ってしまうかもしれないけど、岩沢さんの奥さんからの手紙を読んだ時から、ずっと思っていた事があるのよ。



それはね、一緒に暮らしていても、何年も何年も月日が過ぎようとも、伝わらない気持ちがあるんだということ。

さみしいけど。


それは、しょうがない事だけど。