『無明の果て』

メールの着信に気づき、何気なく開いたその文面は



「新聞に涼の事が載っています。


プロ試験の結果です。」



それは正幸さんからだった。



慌てて探したその記事は、一度見落としてしまったほど小さく、このまま知らずに部屋の片隅に追いやられていたかもしれないほどの記事だった。




”惜敗…”



”西山 涼、惜敗…“


涼は負けた。




勝ったのは、涼より若い二十歳の青年だと書いてあった。



実力にほとんど差はなく、これからの二人の活躍に期待すると締められていた。



たった半目差…


でも、その半目差のために逃した夢を、涼はちゃんと正面から見つめる事が出来ているんだろうか。




私は携帯を開き、迷いもなくその番号を呼び出した。



5回、6回、7回…



8回目でやっと、



「はい。」


と、その勇者は静かに答えた。



「もしもし、麗子です。

…涼君?」

「やっぱり麗子さんだ。
びっくりしましたよ。久しぶりでした。

あっ、一行の見送りに行けなくてすみませんでした。
一行からは電話もらいましたけど、あいつ元気でやっていますか?」




何事もなかったように、そこには以前より饒舌な涼がいた。



「会社のオープンの時、お花ありがとう。

大変な時期だったのに、ちゃんと覚えてくれてたのね。
嬉しかった…

ねぇ涼君…
さっき新聞見たわ。」



「あ、そうですか。
載ってたんですか…
頑張ったつもりだったんですけど、プロ試験…ダメでした。」




「半目差だったって、惜しかったのね…
大丈夫?
何て言ったらいいのか分からないんだけど…」



「大丈夫じゃないです。
麗子さんにふられた時くらいショックです。
なんて、うそですよ。
対局ですから、半目差でも中押でも負けは負け、同じなんです。
僕の気持ちが足らなかっただけです。

相手の方が強い意識で闘ったって事です。」