『無明の果て』

一行がアメリカへ行って一月が過ぎた。



それは私が会社を興してからと同じだけの時間。



そして、多分一行と同じだけの寂しさを抱えた時間。



だけど、一行がひとり迎えた朝と、私と絢が迎えた朝は、同じ太陽の下にある。



繋がった空の下にいる。


私がアメリカで経験したように、一行の今までとはきっと違った毎日が、一行の意思とはまた別の流れで進んでいる事に戸惑いながら、まるでそこだけ早回しように過ぎているのが私には見える。




「一日がすごく早い。
早すぎてさ、二年なんてあっと言う間に過ぎそうだよ。


麗ちゃんもそうだった?


だから、麗ちゃんに言われてた岩沢さんのお墓参りもまだなんだ。」



と、一行はすまなそうに私に言った。



「麗ちゃん、ごめんね。」

と。


「ううん。」

大丈夫よ。
岩沢さんはずっとあの教会で、いつでも私達を迎えてくれるんだから。


一行と離れてから、気持ちも身体も今が正念場だと自分自身に言い聞かせながらの、めまぐるしい日々の連続の中に、今はもういない岩沢の姿が予告もなくよぎる時がある。



岩沢と一行がアメリカで出会う事など、あるはずもないと知りながら、語学スクールで偶然見つけた背中を、教会の祭壇で私達を迎えてくれた両腕を、そして隣合わせた飛行機の席で見た優しい横顔を、あの広いアメリカのどこかで、岩沢と一行がまた出会う奇跡を夢みたりする自分の想いに、岩沢を少しだけ責めてみたい気持ちになる。



だけど、小池から聞いた岩沢がヒーローだったと言う若い頃の姿は、私の知らないもうひとりの岩沢をなぜか一行にの今に重ねて、そしていつか本当のヒーローになって私達の前に帰って来る気がしている。



本当は、初めて会った時から一行は私のヒーローだったけど、今度は私と絢の真のヒーローとなって。






そしてもうひとり、美しい勇者の闘いを、私はしっかりと見届けなければならないのだ。