『無明の果て』

「麗ちゃんへ



麗ちゃんからもらったものが、いつの間にかたくさん増えていました。



目に見えるもの、見えないもの、忘れられない事、忘れてはいけない事…


ここに書ききれない位の喜びや、感動や、思いがけない悲しみも、ふたりで分かち合って来たね。


それはこれからだってずっと続く事だけど、ふたりなら、いや…



絢と三人でなら、きっと乗り越えて行けると僕は信じています。



麗ちゃん、覚えていますか?


麗ちゃんのマンションで、パスタを作って、美味しいお酒を飲みながら、ふたりで将来の事をたくさん話したね。



時間が過ぎるのも忘れて、白々と明けてくる窓の色に驚いた事も今では懐かしく思い出します。



だけど、何もかも麗ちゃんに甘えてあのまま一緒に暮らしていたら、今日の僕達はなかったかもしれないなんて、そんな事を言ったら麗ちゃんは怒ってしまうかな。




僕はきっとまだ学生のようで、麗ちゃんから見たらとても頼りなくて、麗ちゃんを守って行く事なんか出来そうもなかった事も今になれば分かるけど、あの頃の僕はもっと別の麗ちゃんに負けない位の、目には見えない大切な何かを見つけようとして、少し背伸びしすぎていたのかもしれないんだ。

すぐに形にならなくたって、何度も失敗したって、結果ばかりが大切な事ではなく、そこにたどり着くまでの過程だって、ちゃんと人の心をうつんだと云う事が、今になってやっと僕にも分かりかけて来たのかもしれません。



麗ちゃん


背筋を伸ばして生きて行こうね。



僕達は僕たち。


誰の人生でもなく、僕達の生き方で。



岩沢さんが教えてくれた、どう生きたか、何を頑張ったのか、その結果を出すのはまだまだ先の事だけど、もうひとつ、どう努力したのかを麗ちゃんに誉めてもらえるように、しっかり守って行けるように…



行ってきます。



麗ちゃん、忘れないで。


僕が麗ちゃんからもらったものは


”希望“



明日へ繋がる希望と勇気。


だから、大丈夫。