『無明の果て』

一行の歳で特修なんて聞いた事ないわ。


専務に一行の事誉められて、私がどれだけ嬉しかったか…


一行、おめでとう。

待ってるから。

絢と二人で待ってるから。」



私が夢を追い掛けたように、その夢のために寂しい日々をくぐり抜けた愛しい人のために、次は私が見送る番ね。






急いで飛び乗ったタクシーで、絢の手を握りながら窓に流れる景色を見た。



美しく飾られたショーウィンドーの前には、幸せそうに微笑み合う人々が溢れかえっている。



悩み事など何もないふりをして、明日はきっと良いことがあるからと、みんなきっと今日を頑張っているんだ。



一行…


寂しいなんて言わないつもりだったけど、涙がこぼれて仕方がないよ。



「ご気分でも悪いですか?」



バックミラー越しに声をかけて来たドライバーに私は言った。



「夫がアメリカへ転勤で寂しくて泣いてます。」

と。



「それは…

そうでしたか。

それじゃ急ぎましょうね。」