『無明の果て』

「鈴木が特修に決定した。


半年後だ。」


”運命なんてあるのかな“



小池は 私達の未来を 運命だと自分自身に言い聞かせて、私に伝えたかったのかもしれない。



「鈴木は頑張ってるよ。

若いから悩んで立ち止まる事ばかりだろうが、君を嫁にするくらいのやつだからな…


会社は期待している。

発表になる前に、市川には伝えておきたかったのさ…


会社の事もあるだろうからなぁ。


鈴木を見ていると、昔の岩沢を見ているようでな、何とも複雑な心境だ。


でも特修から戻ったら本社勤務だろう。


大丈夫か?

驚かせてしまったな。」




半年後に訪れる、ふたつの始まり。



別々の門出。





本当なら、妻の私に伝える事ではなく、一行の口から聞くはずの事実を小池は私に言った。


それは、小池と私を岩沢と云うかけがえのない友が、心と心を結んでくれたからなのだ。


「市川、君の強さは何だ?

どこから来るんだ?


私に教えてくれないか。」


強さ。


何だろう…




「専務


私が強いのかどうか私には分かりませんが、専務は忘れている事がありますよ。」



小池は眉を寄せて



「何の事だ?

わからないな。」


と テーブルに肘をついた。




「専務、専務は私に頑張れって言ってくれたじゃないですか。



会社を辞めるって決めた時も、私に握手しながら”頑張りなさい“ってそう言ってくれたじゃないですか。



特修を勧めてくれた時だって、私が適任だって誉めてくれたじゃないですか。


いつも、ずっと、認めてくれたじゃないですか…


だから頑張って来れたんです。」



「泣くな…市川…」



ふっと笑って



「別れ話でもしているように見えるぞ。」



そうなんだ。


もし私が強い人間に映っているなら、それは

誰かに必要とされているから。


誰かに認められ、期待され、それを待っていてくれる人がいるから。