『無明の果て』

少し遅れるとメールはあったものの、一行がいない集まりは、かなりの盛り上がりに欠けている。


それでも、顔を会わせるのが二度目とあって近況報告や、仕事の話に尽きる事はない。


「幹事さん、一行はどうしたの?」


正幸さんも気にかけている。


「ホント、遅いね。
仕事が長引いているってメールだったけど。
電話してみようか。」

外に出て一行を呼んだ。


「あっ、一行?
どうしたの?
みんな待ってるよ。」


「すみません。
今行きます。」


「飲んでるの?」


明らかに一行は酔っている。
テンションの低い声は、私の知らない一行だ。


「何かあったの?」


「今行きます。」


少しムッとしたが、ここは大人の対応が必要だろう。


「今来るって。」


涼もなんとなく入り口の方を気にしている。

「遅くなってすみませ~ん。」


いつもの一行が少し赤い顔で入って来た。


みんなにお酌をされて乾杯をし、遅れた時間を取り戻すかのように、盛り上げ役に徹している。


何があったんだろう。
一行らしくもない。



相変わらずモテモテの涼は、女の子達に囲まれているし、幹事としては何かと気をもむ会になった。


一行と涼が話をしていないように感じるのは、気のせいだろうか。

いや男同士なんて、きっとこんなものなんだ。


こうなったら定例会にしようと、正幸さんが会長をかって出た。


嫁が見つかるまで会長は辞めない約束で。

しめは、『永遠の会長に乾杯』を捧げ、散会となった。


「麗子さん、今日は有難うございました。
また連絡します。」


涼は小さな声で言うと、足早に帰って行った。


一行と二人、泣いてしまったあの日と同じ道を歩く。


「一行、今日はどうかした?」


「先輩、この間泣いたのは、どうしてですか。」


「言わなきゃいけない?」


「いけない。」


「私ね、この歳まで仕事ばっかりしてきたでしょ。

一行に誉められて嬉しかったの。

誉められ慣れてないのよ。」


「今日遅れたのは仕事じゃないっすよ。」