『無明の果て』

会社を訪ねる前に、約束を信じて待っていてくれる、私と共に会社を作って行こうと夢を持ってくれた後輩達に、気持ちの変化はないかとメールを送った。


”専務はもう知っています“


と、送られてきた返事に


きっと


”いいかげんにしてくれよ“


と、有望なキャリアウーマンを二人も引き抜いてしまう事を、叱られそうな予感がする。



「失礼します」


ドアの向こうから


「どうぞ」

と、声がした。



「専務、戻りました。

専務には大変よくして頂いて、なんてお礼を申し上げたらいいのか…」



そう言いながら下げた頭を、なかなか上げられずにいる私に

「おい、やめてくれよ。

私の秘密を知られたんだぞ。


恥ずかしいじゃないか。」



そう言って、照れ臭そうに笑いながら



「ご苦労様

よく頑張ったな。」



と、真っ直ぐ私の目を見つめ続けた。



誰もが平等に生きて行くのは、きっと不可能に違いなく、それを知っているからこそ、私達は悩み、嘆き、そしてまた立ち上がる。



私も専務も、岩沢の名前を口にすることはなかった。



それはここが仕事の場だという事。


今は岩沢との事は必要とはしないという事なのである。



「これからも相談に伺って良いでしょうか。」



「あぁ、もちろんだ。でもな、市川

社員の引き抜きは聞いてなかったぞ。」



やっぱり…。



この二年の月日の中で、何度笑って、何度泣いて、何度 一行を愛しいと思ったのか。



絢が大きくなった時 ちゃんと話してあげられるように。