『無明の果て』

みんなが集まる日、お昼に一行を誘った。


「涼くんに、ご両親へのブレゼント選び、一緒にって頼まれちゃった。
それが済んだら合流するね。」


一行には、事前に言うべきことだと思った。

おどけた返事が返って来るものとばかり思っていた。


「いつの約束ですか?
あのバーに行った時ですか?」


「そう。
メールもらって、ちょっと電話で話したかな。 
なによぉ。ヤキモチ?」


「はい、ヤキモチっす。」


は? なんだ? 


「一行、お昼はご馳走するわよ。
そんなヨイショしたって後はコーヒーくらいしか出ないわよ。」


顔がピクついて、うまく喋れない。


笑わない一行は、なかなか上を向かないし。

「やっぱり涼か。」


「なにがよ。
ただの買い物のお供じゃない。
特別な意味なんか何もないよ。」


まるで恋人に言い訳しているようである。


「違うんだなぁ。
涼がそんなこと頼むの、先輩だからっすよ。
まいったなぁ・・・」


よく解らない。
一行の言っている意味が。


「特別なことなの?」

「前に話したじゃないですか。
アイツは自分からは行かない奴なんすよ。」


ふぅ~ん。


でも、私が特別だとはとても思えない。


「一行、私が親に近い歳だから言いやすかったんでしょう。
一行のお母さんだって、私とそう変わらないんじゃない?」


これだけは言いたくなかった言葉だ。


親子ほども歳の離れた若者に、年齢の確認をさせている。


「しょうがないか。
でも遅れないで来て下さいよ。
まいったなぁ」


一行に黙って出かけていたら、どうなっていたんだろう。

いや、どうにもならないに決まっている。



「さ!仕事っすよ。
ボヤボヤしない!」


「うわっ、上司に向かって大胆発言」


一行は気持ちの切り換えを、さりげなく相手に合わせてくれる。

私にはとうてい真似の出来ないことだ。


午後の仕事は会議だの、打ち合わせだの、アッと言う間に時間が過ぎた。


一行は外回りらしく、”そのまま行きます“と、飛び出して行った。