少し黙って大きく息をはいて、一行は言った。



「麗ちゃん、決めた。


来週 休みをとってそっちに行くから。

絢に会いに行くから待ってて。」



「えっ、ほんとに?

会社は休める?

休めるよね。

大丈夫だよね。

…やっと絢に会えるんだ…


一行、二番目でも良いけど、私も一行に早く会いたいよ。」




仕事に夢を持つ事は、誰かが認めてくれる喜びを手に入れる未来があるけれど、かけがえのない私達の宝物を二人で抱きしめる日は、未来なんかじゃないはずだから。




「麗ちゃん、絢にやきもち焼いてるな。


麗ちゃんに会いに行くんだよ。


麗ちゃんと絢に会いに行くんだよ。」




忘れられないものは、この手には入らなかった、美化された遠い夢。





すぐ手に入れたものなんて、いつの間にか忘れてしまっているのかもしれないんだ。


「岩沢さんにも、もう一度会いたいと思ってたんだ。
仕事の話も聞いてみたいし。


連絡しておいてもらっていいかな。

三人で会いに行こうよ。」



「あ、そのことなんだけど、岩沢さんに連絡とれないのよ。


電話かけても、出かけてますって言われるし、メール入れても返事がないのよ。」



「そう。
どうしたんだろうね。

岩沢さんの事だから、また何か、びっくりするような姿で現れるかもしれないよ。


そっち行ってからまた連絡してみるか。」



そうして私達は、やっと抱き合える家族になれた。




一行が『楽園』に見た自分の姿と、



「私を思い出なんかにしないで。
忘れて。」



とでも言っているように、ひとり走り去った園の姿は、麗子には必要のないものになった。