長い時間になるものと覚悟をして来たアメリカでの特修が、ようやくエンドマークを見せ始め、ここでの仕事も最後の追い込みをかけている。




ひとりこの地へ降りた時、どう生きるかは自分で決めると意気がっていた姿は、まるで他人事のように、今では懐かしく思えてしまう時さえある。




いつかは変わっていくこの時代も、家族や仕事や、これから始まろうとしている、会社設立と云う大きな夢を抱えて次の時代へと進み続け、また次の新しい夢に繋がって行くんだろう。




見守られ、見守り続けて生きている日々は、悩んで行く過程や簡単には出そうもない結果を少しずつ創りあげて、私を変えて行く。




「もしもし、麗ちゃん。

変わりない?

絢は元気にしてる?」


一行はいつもこんな言葉で、電話の向こうから微笑んでいる。



「元気よ。


一行、一行こそ元気なの?

声が小さくて、よく聞こえないわ。」


自分の都合や幻に頼ろうとする姿を園の歌に求めたなんて、妻に話す事ではないことくらい、若い僕にだってちゃんと分かっている。



「元気だよ。

本社の仕事も済んだから、明日大阪に戻るよ。」




いつか一行が、涼や園が目指す夢に押し潰されそうになって、暗闇に消え入りそうなか細い声でかけて来た電話を思い出した。


私は慌てて一行の元へ帰って行ったっけ。



「一行、何かあった?」



「何にもないよ。」



「そう。

それなら良いけど、ねぇ 絢の写真は届いている?」



「うん、届いてるよ。

笑うと麗ちゃんにそっくりだよ。


父と息子は、いったいいつになったら会えるのかなぁ。

会いたいなぁ。


電話に出られないかなぁ。」




「一行ごめんね。

日本に少し戻ってから、仕事復帰すれば良かったね。」




「いや、そんな事ないんだ。

そんな事じゃないんだよ。」