「もしもし、園?」



「あら涼じゃない。
久しぶりね。
元気にしてた?

また勝ったって、この間新聞で見たわよ。
ずいぶん評判良いじゃない。

いよいよプロ騎士の夢も、現実的になってきたんじゃないの?」




Mが店じまいをすると噂で聞いた。




「お店辞めるってほんとなの?」



「うん。
今月いっぱいで私もここで歌えなくなるのよ。
私の店じゃないからしょうがないけど、どこか別のお店探さなくちゃって思ってる。

わざわざ足を運んでくれるお客さんもやっと出来て来たのに、うまくいかないものね。」



「そうか、残念だな。
そこのカウンターで、ひとりで聞く園の歌、好きだったのに。

店が無くなる前に聞きに行くよ。」




「そう、来てくれる?
待ってるからね。

実はね、この間のオーディションで最終まで残ってるんだ。

来週が本番。」


「へぇ~、園だってチャンスじゃない。

園の方こそ、デビュー決まるかもしれないなぁ。
そうか、すごいな。」



「そうだ。
ねぇ、涼。
教えてくれない?

涼なら分かる気がする。

目に見えているものだけが全てじゃないって、どういう事なんだろう。」




「ん?」



「オーディションで言われたのよ。

君の歌は悲しいだけだって。
現実の裏側にある今を見ていないって。」




「それって、楽園の歌詞の事言ってるのかな。」



「そうなんだろうけど、よくわからないのよ。
悲しいだけじゃ駄目なのかなぁ。
悲しくて、すごく悲しくて書いた詞だもの、悲しいだけの歌があったっていいと思うんだけど。

裏側だの、本当だの、そんな事じゃなくて、悲しいだけ。
そういうのって、伝わらないものなのかな。」