響き渡る鐘の音に包まれて、私と一行と、そしてもうひとつの命が、ライスシャワーの光を浴びながら暖かい拍手に包まれている。



父と母と、友人たちと、そして私が必死で築いて来たキャリアを認めてくれた、憧れの大人達が、私と一行の未来を見届けてくれている。



そして、思いもかけないものになった涙の挙式は、もうひとつの、年月を越えた真実を、私達の心の忘れられない場所へ運んで来る事になった。




誰もが通り過ぎる、切ない恋の続きを。




式の後、両親や友人達と離れた少しの時間を縫って、専務は私に言った。




「おめでとう。

良かったなぁ。

市川、綺麗だったぞ。

でもな、やっぱり、頑張りすぎるなよ。


仕事はいつでも出来るが、お腹の命は市川が守るんだから。


このままアメリカで生むつもりなのか?」




今まで知らなかった専務の、少し疲れた白髪まじりの横顔を眺めながら

「はい。

有難うございます。


これから相談して決めようと思います。


私だけの事ではないですから。


でも、せっかく専務にお世話頂いた特修ですので、辞める気はありません。


もう少しですから。

会社の件は、予定より少し遅れるかもしれませんが、夢がひとつ増えただけですから。


嬉しくて、怖いくらいです。



専務は岩沢さんに会いにいらしたんですね。」



「まぁ、そんな所だ。
いや、市川の事だって気になっていたのさ。

ん…そうか…
元気でいればいいんだ。


生きていればいいのさ…

そうなんだ…」



独り言のように呟き、太く強い声で私達の手を握り



「ふたりで頑張りなさい。


私は久しぶりに岩沢を誘って、会社の話でもしてみる事にするよ。

あいつが会社にいた頃は、ヒーローだったからな。


今だってそれは変わってはいない。



鈴木くらいの歳の頃に戻ってみるさ。


熱く語った青春とやらを思い出してみるか。