『無明の果て』

偶然というのは、ドラマの中だけかと思っていた。

急に背筋が伸びた。


一行が始めに声をかけ

「おっ、涼。」


「こんばんは」


私も続けて声をかけた。


涼は連れの女性に何か言い、一人で私達の所へ来た。

「この間はどうも。
メール待ってるんですけど、今度はいつか決まりましたか？」


「それの打ち合わせで、一行を誘ったの。
涼くんもここ、よく来るの？」


なんだか早口で一気に喋ってしまった。

慌てた心を見透かされまいと。


「初めてです。
まさかこんなとこで会うなんて、びっくりしました。
じゃぁ、連絡待ってます。

一行、おまえ　久しぶりのデートじゃねぇの。」


「だよなぁ。
おまえとは違うんだよ。」


「麗子さん、一行をよろしく」


そういうと、涼はずっと離れた席に、連れの女性と二人で座った。

「涼くんの彼女？」


「いや、知らないっす。
涼は特定の彼女はいないんじゃないかな。
学生の頃、ひどいフラレ方して変わったんすよ。」
　


「ひどいって、どんなよ」

「二股です。

それも、仲の良い友達だったんです。
俺もよくつるんでたやつ。

結局 みんなバラバラになって、俺も涼以外とは付き合わなくなってしまって。

女は恐いっす。」


みんな 以外な経験をしているもんだ。


「その彼女に、なんとなく似てるんですよ、先輩の雰囲気」


なんだよ。
あっちもこっちも。

私には、特徴ってものがないのか。


「変わったって、何が？」


「涼は女の子から言い寄られると、ダメなんすよ、きっと。

あの容姿だから、目立つし。
その気になれば、すぐ彼女だって出来るだろうけど、簡単じゃないっすよ。

学生の頃は、もっと弾けた感じだった気がするなぁ。」


そうか、女は恐いのか。

別の意味で私は怖がられているかもしれないけど、女はそんな資質も必要なのかもしれない。


「この店に来る時はひとりですか？」


「そうよ。
寂しそうに見える？」

「憧れます。

俺がひとりで来ても、無理してるようにしか映らないでしょ。」