『無明の果て』

一行に会う事だけを考え駆け足で戻ったその場所には、私を支え、私の心を震えさせるたくさんの希望が待っていた。



深夜、私はこの座り慣れたショットバーで、一行が帰るのを待っている。



この店でただひとり

”孤独“


と戦い続けた少し前の私。

今だから分かる言いようのない焦りや、置き処の分からない未来への答えを導き出す事が出来たのは、今の私が


”いつか会いたいと思える自分“ 


のシルエットに、やっと真実の可能性を見たからかもしれないと、そう強く思うのだ。



トップだけを目指す仕事がしたいわけじゃない。


この両腕に、持ちきれないほどの大きな自信が備わったわけでもない。


ただ、ただ今は、前のめりで一歩ずつ行くだけだ。



「おまえがカッコイイ先輩がいるって話した時、麗子さんみたいな人は想像してなかったよ。」



「会社入ってさ、俺の担当になっただろう。

初めは厳しい事も覚悟してたけど、最初に俺の顔見て何て言ったと思う?


”うまくいかなくても心配しないで。


やり直しはいくらでも出来るから。“


すごく自然に、当たり前みたいにそう言ったんだ。


すごくカッコ良かったんだ。


頑張れなんて、言わなかった。


これから仕事を覚えようとしている俺には、オーラみたいなものまで見えた気がする。



本当はさ、何でもいいからきっかけが欲しかったんだよ。


研修で終わりじゃ、何だか駄目な気がしてさ、今考えれば大胆な事したと思うよ。


この間まで学生だった新入りが、バリバリのキャリアウーマン口説こうってんだから。


でも、気になってしょうがなかった。

こんな人には二度と出会えないって思ったんだよ。」



「そうか。

それで結婚までするんだから、かなわないよな。

そうか…」



「涼

悪かったな。」



「何がだよ。

やめてくれよ。


園が言ってた。

俺がプロ目指して、園が歌手になったとしても、一行は絶対に横に並んだりはしないだろうって。