『無明の果て』

日々の暮らしが、自分の都合の良い事だけで成り立つはずのない事は、この歳になれば解りすぎる程だけれど、限りなく尊い未知の可能性を知る事もなく、人生を終わらせてしまうのは我慢が出来ないと、私の若さはそれに背いた。



ワインのように熟成されて、年月を越えた高貴さとでも言うべき路があるのなら、私の進む方向はその路なんだと、今だからこそ何の迷いもなく、そう信じる事が出来る。



マイナスを楽しむ余裕までは、まだ持てそうにはないけれど、幸せのかけらをひとつずつ手に入れて、彼のもとへ持ち帰ろうとしている、今はその途中なのだと踏ん張っている。


「先輩、会社設立はいつ頃になりそうですか?」


「そうね。

あと一、二年はアメリカかな。

準備も少しずつ進めて、帰ったらすぐにでも始めたいと思ってるの。」



「その会社では、求人広告もう出してます?」


笑いもせず、真剣な眼差しで二人の後輩達は私に言った。



「先輩、私達もうすぐ三十路なんですけど、狙ってる再就職先で年齢制限ってあるのか知ってます?」



「知ってるわ。
そんなのないわよ。
ちょうど三十路のキャリアウーマン募集中よ。」



嬉しくて泣けてくる。

私の選んだ、まだ目に見えない未来に、大きな勇気がまたひとつ加わった。



「本気なの?」



「本気ですよ。
待ってますから、そのかわり少しでも早くお願いしますね。

良い男に言い寄られて、いなくなっちゃうかもしれませんから。

私達の夢でもあるんですよ。
一から会社作るなんて、それに関われるなら、どんなにかやりがいがあるだろうって。」



眩しい輝きを放つ若い彼女等は、とぼけたフリをしてVサインを私にくれた。



「ありがとう。
即決、内定です。」



笑っているのか、泣いているのか、おんな三人、キャリアウーマンはお互いを認め合う事が出来てこそ、それに値する存在なんだろう。