『無明の果て』

園さん私、あの歌はきっと、たくさんの人が聞いてくれるようになると思の。

本当にそう思うの。
良い歌だもの。」



まるで何かの言い訳のように、私は園に何度も言った。



「ありがとうございます。
夕べ、あれから涼がまたお店に来て、ふたりで色々話したんです。
そうですか。
ふたりで会ってるんですか。」




きっと私より園の方が、ふたりの事を理解出来ているのかもしれない。


下を向いて少し黙り、園は続けた。




「来週、オーディションなんです。
ダメモトですから、怖いものなしです。」



「そうですか。
来週じゃ、私はもうアメリカですね。
良い結果になると信じていますよ。」



「じゃあ。」



園は歩きかけて、また止まり



「一行に、大事に歌うからと伝えてください。」



そう言って、大通りへ消えて行った。



園が、”一行“と呼んだのは、最初で最後の私への意地。


待ち合わせた店には、まだ誰も来てはいなかった。


あの頃の私のように、頑張っている彼女達を、労ってあげられる余裕も、今なら惜しみ無くしてあげられそうだ。



そして今頃ふたりは、学生の頃のように、私がふたりに初めて会った頃のように、年上のキャリアウーマンなんか知らない頃のように、並んで話し込んでいるんだろうか。




「涼、いつからプロになろうと思ってたんだ?」


「あのコンパの日」


「コンパって、あの最初のコンパか?」


「うん。」


「麗子のために?」


「その時はそうだったけど、今は違うよ。」

誰にも気付かれず、ひとり闘う涼の心は、きっと大輪の花を咲かせるに違いない。