人生の価値は、何かの線引きがあって、喝采を浴びるものではない。
愛している人に誉めてもらえたら、それでいいんだ。
路地からまた ”M“に向かい歩き出した。
もう見えないだろうふたりの姿を、振り返り探しながら、緊張の解けた身体を戻そうとした時、
「あっ」
大通りへ出る曲がり角で、一瞬立ち止まり、左手を上げてこっちを見ているその人を、確かに僕は見た。
まぼろしかと思うほど直ぐに消えた夢は、もう一度同じ時を創る事はない。
もうすでに”M“の灯りは消され、でもドアの隙間から少しだけもれた音楽が、園の気配を匂わせていた。
「ごめん。
遅くなって。」
「一行には会えた?」
「会わなかったよ。」
「そう。」
マスターが
「鍵かけてって。」
そう言うと、
「ゆっくりして行きなよ。」
涼に声をかけ店を出た。
「すみません。」
涼は
「本当は隠れた。」
そう言いながら、園の隣に座った。
「麗子さんって、素敵な人ね。
一行も涼も好きになる人なんて、どんな人かと思っていたけど、戦わない人なのね、きっと。」
「よく解らないよ。」
「涼、私さ、一行にもう一度付き合ってって言ったこと、知ってるでしょう?」
「うん。」
「ほんとは違うのよ。」
「えっ、何だよ。」
「プロボーズしたのよ。
結婚しない?って」
園はカウンターに伏せ、声をあげて泣いた。
泣きながら、途切れ途切れにこう続けた。
「愛してくれてありがとう。
って一行は言ったの。
でも、園の事は愛してないって。」
園の涙は、
『楽園』
を歌う その力だった。
愛している人に誉めてもらえたら、それでいいんだ。
路地からまた ”M“に向かい歩き出した。
もう見えないだろうふたりの姿を、振り返り探しながら、緊張の解けた身体を戻そうとした時、
「あっ」
大通りへ出る曲がり角で、一瞬立ち止まり、左手を上げてこっちを見ているその人を、確かに僕は見た。
まぼろしかと思うほど直ぐに消えた夢は、もう一度同じ時を創る事はない。
もうすでに”M“の灯りは消され、でもドアの隙間から少しだけもれた音楽が、園の気配を匂わせていた。
「ごめん。
遅くなって。」
「一行には会えた?」
「会わなかったよ。」
「そう。」
マスターが
「鍵かけてって。」
そう言うと、
「ゆっくりして行きなよ。」
涼に声をかけ店を出た。
「すみません。」
涼は
「本当は隠れた。」
そう言いながら、園の隣に座った。
「麗子さんって、素敵な人ね。
一行も涼も好きになる人なんて、どんな人かと思っていたけど、戦わない人なのね、きっと。」
「よく解らないよ。」
「涼、私さ、一行にもう一度付き合ってって言ったこと、知ってるでしょう?」
「うん。」
「ほんとは違うのよ。」
「えっ、何だよ。」
「プロボーズしたのよ。
結婚しない?って」
園はカウンターに伏せ、声をあげて泣いた。
泣きながら、途切れ途切れにこう続けた。
「愛してくれてありがとう。
って一行は言ったの。
でも、園の事は愛してないって。」
園の涙は、
『楽園』
を歌う その力だった。


