マスターが

「西山くん」

と電話を差し出した。

「もしもし、涼?

どうしたの?
黙って帰っちゃって。」


「うん。ごめん。

あのさ、忘れ物しちゃって、カウンターの隅に封筒ない?」



「ほんとだ。
あるよ。」


「これから取りに行くよ。」


「涼、さっきね、一行と麗子さんがここにいたの。

涼、今どこにいるの?
店の近くなら会えるかもしれないわよ。

涼?

聞いてる?」


「うん」


「涼に頼まれてたことは前に伝えておいたけど、おめでとうって。

涼、自分で直接言ったら?」



電話はそのまま、切れた。



空も大地も水も緑も、一時だって同じ形でいる事はない。



自然が作り出す美しいと感じるものの、その表現の仕方を、私も涼も まだ知ってはいないのだ。





「あっ、麗ちゃん。

正幸先輩、結婚するって。」


「ほんとに。
誰と?」


「お見合いしたらしいよ。

会長辞任ってメールが来た。」


「そう、良かったね。
明日電話してみるわ。
アメリカへ行く前に会えなかったし、お祝いしなきゃ。」



「ちょっと待ってて。
何か飲み物買ってくるから。」



半年と云う月日は、それぞれの人生を変えた。


何が答えなのかは、自分で探し、自分で見い出す。


誰かに見られている気がしてまわりを見渡すと、街灯に照らされている影が、そこで立ち止まっている。



”涼?“



「麗ちゃん、お待たせ」


「うん。
ありがとう。」


もう一度振り返ったそこにあったのは、涼の残像だけだった。