「涼君は涼君よ。
一行の奥さんは、この歳でやっと気づいたのよ。
大阪へ行く時の一行の挨拶は、私の支えなのよ。
何かが起きて、解決方法がひとつだけなんてないと思ってるの。
私達は二人とも、少し慌てすぎたかな。」
諭し、戒め、言い聞かせようとなんかしていない。
正直に今の私の想いをぶつけたのだ。
「結婚したことは?」
一行の左手を取り、それを私の頬にあてた。
「遅いくらいよ。」
園の歌が終わり、少し経って私達の前に現れたその人は
「こんばんは。
はじめまして 北原園です。
ごゆっくり。」
後ろから静かに話しかけてきた。
「麗子」
一行が私の名前を彼女に告げ、私は
「素敵でした。」
そう言って、微笑んだ。
彼女もまた 悩み 立ち止まり、振り返り、つかみとろうとしている ”夢“ を追い掛けている。
一行、膝を抱えて眠らなくていいよ。
私の胸に顔を埋めて、泣いてもいいんだよ。
「もし、嫌じゃなかったら、次の歌の時間まで少し話しませんか。」
一行は、私が園にかけた言葉に驚いているようだった。
「はい。」
カウンターには三人だけが並び、私を挟んで、右に一行、園は私の左側に座った。
不思議と緊張も違和感も湧いてこなかった。
それは、園の歌声が観客を圧倒し、その姿に彼女の情熱や真実を見た気がしたからだった。
自力の心と、尊敬出来るものを、感じたからなのかも知れない。
そう、”徳“とでも云うような。
男とか女とか、若いとか、年上だとか、ちょっとの付加価値が偉いような錯覚など、今はないはずなのだ。
「良い歌ですね。
作詞は園さん?」
「えぇ、そうです。
一行、いえ鈴木君の曲があったから出来た歌です。」
鈴木君と言い直して、園は
「すみません」
と、小さくつぶやいた。
一行は黙ってグラスを持ちながら、どうしていいのか分からない様子で、真っ直ぐ前を向いたままだ。
一行の奥さんは、この歳でやっと気づいたのよ。
大阪へ行く時の一行の挨拶は、私の支えなのよ。
何かが起きて、解決方法がひとつだけなんてないと思ってるの。
私達は二人とも、少し慌てすぎたかな。」
諭し、戒め、言い聞かせようとなんかしていない。
正直に今の私の想いをぶつけたのだ。
「結婚したことは?」
一行の左手を取り、それを私の頬にあてた。
「遅いくらいよ。」
園の歌が終わり、少し経って私達の前に現れたその人は
「こんばんは。
はじめまして 北原園です。
ごゆっくり。」
後ろから静かに話しかけてきた。
「麗子」
一行が私の名前を彼女に告げ、私は
「素敵でした。」
そう言って、微笑んだ。
彼女もまた 悩み 立ち止まり、振り返り、つかみとろうとしている ”夢“ を追い掛けている。
一行、膝を抱えて眠らなくていいよ。
私の胸に顔を埋めて、泣いてもいいんだよ。
「もし、嫌じゃなかったら、次の歌の時間まで少し話しませんか。」
一行は、私が園にかけた言葉に驚いているようだった。
「はい。」
カウンターには三人だけが並び、私を挟んで、右に一行、園は私の左側に座った。
不思議と緊張も違和感も湧いてこなかった。
それは、園の歌声が観客を圧倒し、その姿に彼女の情熱や真実を見た気がしたからだった。
自力の心と、尊敬出来るものを、感じたからなのかも知れない。
そう、”徳“とでも云うような。
男とか女とか、若いとか、年上だとか、ちょっとの付加価値が偉いような錯覚など、今はないはずなのだ。
「良い歌ですね。
作詞は園さん?」
「えぇ、そうです。
一行、いえ鈴木君の曲があったから出来た歌です。」
鈴木君と言い直して、園は
「すみません」
と、小さくつぶやいた。
一行は黙ってグラスを持ちながら、どうしていいのか分からない様子で、真っ直ぐ前を向いたままだ。


