恋人と呼べる男性には、ここ五年程お目にかかった事がない。


その五年前だって、はっきり彼と呼べるものかと聞かれれば、胸をはれる自信もない。


もう38歳になってしまった。


仕事はそれなりに順調で、自由に出来るお金も手に入り、はたから見れば、バリバリ "キャリア" に見えるんだろう。


それが私の納得いかない人生の根源を作っているのだ。


部下が男性なのは真面目に仕事をして来た結果で、男性に負けまいとしているわけじゃないし、「こわ~い」と女子社員が噂しているのもしっかり私の耳まで聞こえてくる。


何なんだ。
どうしろというんだ。


今更「コピーとりま~す」とか言ったら、かえって嫌味に映るだけだろう。


私は焦っている。

ある日風邪をひき、熱を出し、食べる物もなく、殺風景なマンションでひっそり死んでいるのを三日後くらいに発見される。


そんな恐ろしい妄想さえ、閉じた目の裏に鮮明に浮かんでくる。


下着くらいは恥ずかしくないものを準備しなくちゃと要らぬ心配をするのも、余計な妄想だとわかっている。


せっかくの休日も午後になって目覚め、買いだめしているジャンクフードを味気無く食べる。


そのまま一歩も外へ出る事なく、ひとり夜を迎える週末にいつからかすっかり慣れてしまった私がここにいる。


私が男でも、こんな彼女はお断りだ。



決めた。



このままでは腐乱死体へまっしぐらだ。


決めた。


明日の朝から違う私になって、"シアワセ"とか言うやつをこの手につかむのだ。


ふと鏡に映った自分を見れば、そこにはつまらなそうな女がひとり 映っているだけだ。



少し無理して笑ってみた。


そして束ねていた髪を下ろし、いざという時のために大枚をはたいて買ったMOGAのスーツを着てみた。


今がいざという時なのかは別にしてもなかなか良い女に見えるじゃないの。

派手過ぎない化粧でイメージアップ大作戦だ。


会社で陰口を言われても、やる時が来たのだ。