One Single Color

「あ…、あはは、気付かなかったね」


瑞希君はドアの方を向いたままだ。


「あ…。じゃ、じゃあ…」

「じゃあね、『大森君』って?」

「っ!」


思わず動きを止める。


「俺、言ったんだけどな。もうそうやって呼ばないで、って」


と、ため息混じりに言い、続ける。


「そっか、そうだよね。君はあの時、ただあの場から逃げたかった」

「…俺が、わがままだったんだ」

「違う、そんな、嫌いとかじゃない! 違うの。ごめんなさい…」


どうやって言い訳するか分からなくて、謝ることしかできない。


「じゃあ、呼んで? 俺の名前」

「……ぁ…」

冬は、夜が早い。

そんな季節になると、学校が終わってすぐでも夕日は訪れる。

赤い太陽が、振り返った瑞希君の瞳をオレンジ色に変えていた。

朧な日輪が放つ光が、彼の瞳に移り、反射し、私の目を射ぬいているようだ。

瑞希君、瑞希君、瑞希君。

心の中では呼べば呼ぶほど愛しくなる名前。でも何故、口に出そうとするとのどが詰まってしまうんだろう?

私がもたもたしていると、瑞希君がゆっくりと、近づいてきた。

反射的に、後ろへ下がる。

ずっとそうやっていれば、いずれ壁にたどりつく。瑞希君はそこに手をつけて、私を閉じ込めた。