色々あって遅れてしまった。なので、通学路で藍音とは会わなかった。

校舎に入ると、早速クラスメイトを見つけた。


「おはよっ!」


昨日は体調不良という理由で休んだので、なるべく元気よく皆に挨拶をする。

そのまま足を進めていくと、果たして教室へと近づいていく。

私は笑顔を崩さず、歩みを遅めず、皆に対し、同じように振る舞う。

これなら、大丈夫。大丈夫だと、心で復唱する。

これならあの人に会っても―――

途端、視界に入ったものを認識すると、無意識に体が震えた。

瑞希君だ。瑞希君も私に気づくと、一瞬言葉を失ったように見えた。
が、やがてはにかんだ笑顔で、


「おはよう、瑠璃子」


声をかけた。

心拍数が上がる。瑞希君から目を離せない。

早くこの時間を終わらせよう、と口を開いた所で気付いた。

どうやって、呼べばいいんだろう?

前みたいに彼を呼ぶか。昨日のあの事を受け入れて、その時のように彼を呼ぶか。

私は、


「…あの…」

「…」

「…おはよう、大森君」


私はそういうとすぐに自分の席に着く。タイミング良く、学校のチャイムが鳴った。

逃げた。逃げてしまった。

私は逃げてしまったんだ、昨日の瑞希君を受け入れる、という事から。

瑞希君を、否定してしまった―――?

だって、突然すぎる非日常だっただから。あまりにも、衝撃的で、壊滅的で、

残酷で………甘美な、罠のようだったから。