天神楽の鳴き声

「いってえ!!」

当て付けのように、地面に叩きつけられ、苳熹は顔を歪ませる。素早く駆け寄ってきたのは、雪千夏だ。
雪千夏は苳熹に肩を貸しながら、

「大丈夫ですか?主。…どこかの森のようですが…」
「あの、ババア、こんなとこまで飛ばしやがって!!」

夜の森は何も見えない。鳥や虫の鳴く声が聞こえるのみだ。あまり長居はしたくない。月がやけに明るく輝いている。

「でも、見つかりましたね」
「ああ、盲点だったよ」
「あの少女を迎えにきた女性は、宮中の兵でしょうか。あの着物は見覚えがあります」

苳熹は手のひらを月に向けた。そのままぐっ、と力強く握る。

「何処の誰だなんて、関係ねえ。これが正しい運命なんだ。迎えにいってやる」

なんの迷いもない、眩しいばかりの男。闇の中にいようと、輝く、引きの強い男。

雪千夏は、その眩しさに目を細めた。

「まったく、大きくなりましたね…」

雪千夏は苳熹の頭をがしがしと雑に撫でる。

「ちょ!ガキ扱いすんな!」
「小ささは変わりませんねぇ」
「うっせえ!黙れ!」

苳熹は小ささを言われ、雪千夏に噛みつく。雪千夏はその様子を見て微笑する。

「…まあ、とりあえず、梨珱がお腹を空かして待ってるでしょうから、帰りましょう」
「だな、」

二人はまた森の中に消えていった。

ー…