天神楽の鳴き声

「勝手に、女子を連れ去るなんてぇ、しちゃいけないんじゃなぁい?」

聞き覚えのあるその声の主は、

「明乎!!」
「迎えに来るの遅くなってすみませんねぇ、姫様」

明乎は目の前に立ちはだかる。

「主、ここは私が」

雪千夏はそう言って明乎に刀を抜く。明乎もそれを合図に刀を抜く。先に斬り込む明乎だが、身軽に風を受けるように雪千夏は避ける。

「私は基本、男尊女卑の考えは捨てるべきだと思うのですが、あなたは、随分弱くてらっしゃる。勿論、他の人間であれば、うち伏せることも可能でしょう…けれど」

雪千夏は饒舌に喋る。微笑みを称え、楽しんでいるかのようだった。

「くそ、…ゃあっ!!」
「それでは、私のような人間は倒せません。不足分を補う方法を頭で考えなさい。真に強い者はどの方向からも見ることの出来る者なのだから…!!」

雪千夏の刀がふりおろされ、寸前の所で避けたかと思うと容赦の無い蹴りが脇腹を襲った。

明乎は唇を噛む。

姫様を助けなきゃいけないのに。あの方のもとへ、返さなくては。

その隙を見て、雛生を担ぐ男は走っていってしまう。

あたしは、なんて弱いんだろう。

「させない!…鳴桂!」
『はーい!』

沚依は首飾りで鳴桂を呼び出した。鳴桂は花を持ち大きく円を描く。

『さようなら』

金に輝く鱗粉が雪千夏と苳熹に触れた瞬間、さらに目映い輝きを放って消し去った。

どさり、と雛生が地面に転がった。

ー…