天神楽の鳴き声

「力を…呼び込む…得手とするもので…」

羽佳さんの頬に触れた。まだ暖かく、眠っているようだった。

雛生は息を吸い込んだ。
羽佳の痣を触れ、雛生は丁寧に歌う。丁度、ひと月後に始まる祭で披露する神楽歌だ。

一節を歌い上げるが、羽佳になんの変化も見られない。

なにも起きる訳がない…か。

何の効力もない、自分の歌声なんて。雛生は自嘲気味に笑った。

その時だった、羽佳の瞼が微かに動いたのは。
薄い唇が動いて言葉を発する。

「あなた、だれ?」
「私は…雛生です…羽佳さんは、どうして、いえ…起きれるんですか…」

羽佳の体から漆蕾の痣が消えていた。

「どうして、私の名を?…どういう…ことかしら?」

病で眠っていた羽佳が目覚めた。

雛生は自分の喉に手を当てた。
今さっきまで疑っていた自分の力が働いたというのだろうか。

そんなことがあるというのだろうか…。

「あら?なんだか、外が騒がしいわ、どうしたのかしら?」

確かに怒鳴り声や、叫び声が聞こえる。

「羽佳さん、ここで待っててください」

雛生はそう声をかけ、裏口から外に出た。

-…