天神楽の鳴き声

雛生はなんだか眠れずに寝台から抜け出した。水でも飲もう、そう思い雛生は借りた羽織を引っ掛け、部屋を出た。薄暗い廊下に出ると、まだ煌々と明かりのついた部屋があるのを見つけた。

こんな時間に誰が起きているの…?

おそるおそる部屋の戸を開けた。

「ありゃ、雛ちゃんじゃないの。どうしたの?」
「彰榮さんこそ、どうして…!!」

彰榮は、ああ、ここは僕の仕事場、と言って笑った。

「細工師してるから…大体は仕入れた素材を加工して、装身具にしてるかな、まあ、他にもいろいろ…。」

彰榮のいる机には確かに玉や、鎖、硝子に工具が散らかっている。

「へえ、すごいです…」
「巷では結構有名なんだよ」

いつもと変わらない優しい声で笑った。少しお話する?と楽しそうに雛生に聞いた。僕もまだまだ眠らないから、と言って返事を待たずいそいそと部屋の棚からお菓子と御茶とを取り出す。

「夜のお話には、御茶とお菓子をお供にしなきゃね…」
「彰榮さん好みが女の人みたいですね、」
「酷いなー、れっきとした男なのに、」
「私の知ってる人に、ちょっとだけ似てます」

そう、と嬉しそうに目を細めた。ついでくれた御茶を飲みながら、そういえば、志臣も御茶をいれるのがうまかったことを思い出す。

「その人のことが、好きなの?」
「…それ、彰綺さんにも言われました…」

少しため息をついて、顔が火照りそうなのををおさえた。くすくすと彰榮は笑う。