天神楽の鳴き声

「そうは言ってられない理由が出来たんだよ」

空平の言葉に奈霧は俯きながら返す。そして、もう一度、奈霧は志臣を強い瞳で見返した。

「その理由はおれ達に話す事は出来ないの?」
「今は、…何とも言えないです。ただ、主上に不義な事は致しませんし、この身を捧げることも覚悟の上でございます。」

強い言葉だった。

悪い流れではないように思える。
何を、焦っているのだろう?奈霧の言葉もまた嘘はないだろうが…。

ちらりと空平に目をやると、手をあげ、ゆっくり口を開いた。

「まあ、奈霧と俺は長い付き合いなんで、為人(ひととなり)は保障出来ますよ。」

志臣は空平の言葉に頷くと、奈霧に声をかけた。

「そうか、では、奈霧、」
「はい」

ごそごそと志臣は自分の机の引き出しをあさり、翡翠の玉の首飾りをだした。空平も今ここに居ない葉深も玉の種類は違えど同様の首飾りをかけている。

「これが、紫仁衆に入ったという証、」
「これが…」

手に取ろうとする奈霧からひょいと寸前の所で持ち上げられる。奈霧はびっくりとした顔で志臣を見つめ返した。

「あのね、これは、一回嵌めるともうはずせないわけ、わかる?首輪なの。無理にやれば首ごともげる。俺が失政をおかしてしまった場合この首飾りから呪詛がかけられる。もう、逃げられないよ」

帝という地位は、人の生を時として縛り付ける。それは、元来あって欲しくはないものだ。だからこそ、志臣は何度だって確かめるのだ。
奈霧はお構い無しに志臣の手から首飾りを奪った。そして、自分の首にかける。