天神楽の鳴き声

光漓というのは、志臣の父、父つまりは祖父と後妻との間に産まれた子だ。

「光漓さんは確かに危うい噂のある方だが、悪い人では…」
「だーかーら、そういうとこがお人好しっていうか、阿呆っていうか、」
「ひどすぎるだろ!」

空平は、ふと力を抜き、いつものように笑った。そして、項垂れる志臣に手をおいた。

「そういうことは、こっちに任せてください。そのために俺らはいるんですから、」
「ありがとう、空平…」

「主上、」

空平の名前を呼んだ時、隣に静かに控えていた奈霧が声をかけた。穏やかな、けれど、何かもの言わぬ雰囲気をだす奈霧を少しの間見据え、志臣は口を開いた。

「どうした?」
「はい、私は、主上に申し上げたい旨があり、この一件を口実としてここに参りました」

奈霧の一人称が、"私"になり、空気は一気に張り詰める。膝をつき、頭を下げた。

「私を、陛下直属の臣にして頂きたいのです」

「!!」

志臣と空平は驚きに目を見張る。奈霧は真剣な目でこちらを見返した。その目には、焦りと緊張が見える。

「お前、縛られるのは好きじゃねえって、だから、俺たち側に来るの嫌だったんじゃねえの?」

俺たち側というのは、帝である、志臣の選抜した人間(例えば空平と葉深のような)を紫仁衆のことだろう。紫仁衆とは、帝に忠誠を誓った者たちの事で、それによって、利益も不利益も勿論被る事となる。
志臣が失政によりたおされてしまった時など最たる例だろう。処刑というには、あまりに惨い罰が待っている。白官の術者により、精神に苦痛を引き起こし、長きに渡り、死ぬことを許されない術をかけられる。それは、不安定な政治を国民にしいた事への罰である。