天神楽の鳴き声

「漆蕾病のことについて調べてくれてる、奈霧。三度の飯より研究が好きな変態みたいなやつなんだ」
「空平、俺は、変態なわけじゃない。まあ、下手に人間と関わるよりは好きだがな」

その言葉に、空平は、ねえ?変態でしょう?と志臣に同意を求める。それは人間の営み的に問題があるのでは、と言いたくなったが、そこをぐっと堪えて志臣は奈霧に聞く。

「何か、見つかったのか?」
「いや、まあ、言えるとするなら、あれは神懸かり的な類いだと俺は思ってます。感染症のものではないし、俺が言いたいのは違うことです…白官たちの所有する、蔵にはいったんですけど」
「奈霧、それってかなり危ない橋なんじゃない?」

白官の所有する物には他の色官は触れてはならないという決まりがある。勿論、危ないからという理由もあるが、決して見てはいけないような、禁忌的な意味合いもあるように思える。
決まりを破れば、厳しい処罰が与えられる。

見つからなかったのかよ?と身を乗り出しながら空平は聞いた。

「俺だって今の居場所は気に入ってる、そんな馬鹿はしないさ、とあるスジから白官の着物をもらい受けれたから、それを使ったわけ」
「とあるスジって」
「内緒、でもさ、白官達は、この国の、そもそもの根底を支配する力を手に入れようとしているのかもしれない」

根底を、支配する力ー…

「それは、どういう事だ」
「わからないです。白官達にしかわからない言語を有し、それらで書物や、書簡を作成する、それだけでかなり怪しくないですか?あと、多分、紫の人間と繋がってる」

奈霧は声をひそめた。白官が飛ばしている伝達用の蝶が紫風殿へかなりの頻度で飛ぶのに対し、使用記録が抹消されているらしい。

つまり、漆蕾の事を調べている内に思わぬ内乱の芽を見つけた、というわけだ。