天神楽の鳴き声

「本っ当に、なんで、あんなに失礼なんでしょう!!」

白徭宮を出ると、莉津は憤慨した。ぷりぷり怒る莉津にどうどうと宥める明乎も納得しない顔をする。


白徭宮の白官達の態度の事を言っているのだろう。

「まぁ、白官達は他の色官がたちが入るのを嫌うからねぇ…」
「こちらだって、天神楽に仕える人間なんですよ!?それをまるで、あちらばかり…感じ悪いですよー」


雛生と銀様は対の巫女だ。お互い違う立場から常世の平定のために出仕するのだ。しかし、朱色の巫女としての雛生の役割は次代の帝を産むという意味合いが強く、銀様のように予知出来るわけではない。神通力が強いわけでもない朱色の巫女への白官達の風当たりは強い。


「もういいよ、…次は」
「芯罌殿の方で湯浴みですよ。」


莉津は、こちらですね、といって長屋の戸を開けた。

「朱巫女さま…、ご用意出来ています。」
丁寧に礼をし、顔を上げたのは、雛生と同じ年頃の女で、確か、よくここでの世話をしてくれる、椎夏(シイカ)だった。

芯罌殿は色官たちの(もちろん、皇族である紫官、閉塞的な白官以外)風呂も兼ねている。


もちろん、帝に嫁いだ身である、雛生にだって、志臣と共有の風呂があるのだが、今から行う湯浴みは身を清めるという儀式の意味があるため、此処で入らなくてはならない。


まだ日の入り前の湯殿には人は当たり前のようにいない。