天神楽の鳴き声

銀様、になる前の自分の名前。誰にも長い間呼ばれずにいると忘れてしまいそうになる。


「その名前を呼ぶときは、きっと最期の時です」
「大事にとっておきたいの?」
「そういうことです」


無表情な彼の顔が少し動き微笑みをつくる。
銀様はゆっくり透茉の顔に触れた。透茉は誰かに触れられる事に慣れておらず、少しだけ顔の筋肉を強張らせたのがわかった。

男性、というよりは柔らかい印象を与える中性的な顔立ち。


「……」

銀様が見つめていると、透茉の口がなにかを言おうとして、開きかけ、言葉になる前に閉じた。

透茉の言う最期が近づいている予感は何度もあった。
天神楽に語りかけ、予知をするのが銀様としての責務だが、最近は語りかけても何も感じることが出来ないのだ。ふと、気まぐれのように微弱に流れ込んでくることはあっても。


「最期は名前を呼んでくださいね?」
「勿論」

わたくしの名前を呼ぶ、あなたの音が一番好きなのだから。


外からおかあさまー、と室に飛び込んでくる雪佳と待てよ、と怒り気味の透璃が後に続いて入ってきた。

不幸せなわけではなかった。けれど、こんなにも狭く小さなものだったのか?

時々、胸がざわつくのだ。
それは、咎められることなのだろうか。


―…