天神楽の鳴き声

「雛生さまがお見えしてるんですよ?…挨拶なさい」
銀様がそう言うと、はあい、と間延びした声で愛らしく笑う。

「はじめまして、巫女さま。雪佳(セツカ)といいます」
「…この子はね、わたくしが外へ赴き、見つけてきた代替わりの子。その子にはそう呼ばせるしきたりがあるんです。だから、実子というわけではないんです」


銀様が撫でてやると、雪佳は嬉しそうな顔をした。

「もう、わたくしには時間がない。…だから、あなたに、託したいんです」


破滅の結果を導くとしても、少しの変化を望めるなら。そんな事を考えるわたくしは巫女失格かしらね、と悲しそうに笑った。


「…」
かける言葉が出てこない、とは、まさにこの事だと思った。
別に、破滅を望んでいるわけではない。ただ、ただ、この状態が嫌で、抜け出したいだけなのに。
足掻いているだけなのに。
この道は、犠牲にしなくてはならないものが多すぎる。


「雪佳ーっっっ!!」

穏やかな空気を破るような、少年の声。どたどたどたと銀様の、正確には抱きついている雪佳に怒る。


「お話中だから、行くなって言われただろう!!」

紺の髪、それと同じ色の目をした雪佳と同い年くらいの少年は声を張り上げる。そんな風に怒られても、まるで動じず雪佳は、


「うるさいー、透璃(トウリ)うーるーさーいー。雪花菜が走ってっちゃうんだもの、仕方ないでしょう」