天神楽の鳴き声

「忘れ物しちゃったー」

そんなことを言って入ってきた雛生の顔がみるみる内に強ばる。後ろにいた莉津も口をあんぐりと開けた。

「え、…え…?」
「二人ともどーいう関係よぉ?」

硬直する雛生と莉津の後ろで明乎は楽しそうにげらげら笑っている。

空平が志臣を押し倒している図は、あまりに怪しく目に映ったことだろう。

がばっ、と起き上がって志臣が弁解をする。

「待つんだ、雛、何にもやってない、怪しいことなんて何にも…!!」
「じゃあ何やってたのよ?」


雛生の冷ややかな目が突き刺さる。背中に汗を流しながら尚も志臣は弁解を続ける。

「講習、というか、演習というかね!!」
「なんの?」
「あ、…えっと」

「姫さんを押し倒すための、ですってー、俺が一から十まで教えてやったんですよー」
「ちょっ…!!」


ゆったりと立ち上がっていい笑顔で言う空平の口を塞ごうとしてももう遅い。
へぇ、と地の底からわき上がるような重い声を出す、雛生をそろりと見た。


「ちが、ちがうんだよ、雛ー」
「寄るな、変態。」


待って、と手を伸ばした志臣に冷たくいい放つ。
ぴし、と空気の固まる音がたような気がした。明乎と空平は腹を抱えて大爆笑をしている。

「ごゆっくり」

作り笑いを浮かべ、ふん、と室を出ていく、雛生を慌てて莉津と明乎は追いかける。

「こーゆう星の廻りに生まれちゃったんですよ、潔く諦めましょ、主上」
ぽん、と肩に置かれた手を辛うじてはねのけた。

俺は、泣きそうだ。


―…