ガラ…




ドアを開けたら




バシャンッ




また、水をかけられた。






「きったなww」



そんな声が聞こえて

いつもの、偽りの笑顔をつくる。







『ちょ…あすかッ…『来んといて』』



黒原の言葉を遮って

伝えたいことだけ、言った。








巻き込みたくない。



あんな綺麗な目を真っ暗にしたくない。






「誰?…あ、転校生?」

「え、イケメンやん」





黒原って

イケメンなんかな。





「一緒にやらへん?」

『何を…』

「…いじめ」





“いじめ”そう確信したとき

何かが壊れた。





「なーんてな」

『…は?』

「いじめなんかするわけないやーん。ごめんな、あすか手すべって」







そう言って手を伸ばすいつものやつ。



その手に触れるとき

あたしはあたしでなくなんねん。






だから絶対

触れへん。






自力で立ち上がって

自分の席に行く。








机にはびりびりになった教科書とノート。

“死”という字。









…大丈夫、慣れてる。






全部机に入れたとき




カシャッ







「…」



手で触れると

…卵。







周りを見渡すと

クスクス笑ってる連中。






「にわとりが産んだ卵、あんたで汚れたね?」



お前の手に触れた時点で汚れてるわ。





「…ほんまやなぁww」



言いたいけど、言えない。







「掃除する?…はい」



そう言って頭にのせられたのは

雑巾。







そのときチャイムが鳴って

先生が入ってくる。




先生「何してんねん。汚いやろ、洗って来い」





キッと先生をにらんで

廊下に出た。





教室からは


先生「あ、そうそう。こいつが転校生の黒原俊な」




そんな声が聞こえた。







そう言っている間に

いつもの場所、屋上へ向かう。







保健室でもらったタオルで

頭やら身体をがしがし拭く。







いつもみたいに空を見たら

まぶしすぎるくらい、綺麗で。







バタン…








「…黒原」

『…ごめんな、助けられんくて』




そう言って隣に座る黒原。










『…いじめ、られてるんやんな』

「…そうやで、だから近づかんといて」







そう言ったら頭から被ってるタオルごしに

頭をなでられた。







「なッ…『別にえぇやん』…は?」

『…俺にはあすかが強く見えるで」







綺麗な目が

あたしを捕らえる。






「…あかんって、いじめられんであんたまで」

『なら、一緒にいじめられよっか?』

「…は?」





顔色変えずに言う黒原。






『俺さぁ…前の学校でもいじめあってん』

「…うん」

『あすかとは違うかった。そのこずっと泣いて謝っててん』




“助けられんかった…”ってつぶやく黒原。







『…死のうとも、してた』




ドキっとした。







ここで1回だけ

死のうと思ったことがあったから。









『でもな、俺止めれてん。…そのこしゃがみこんでさ』

「…」

『死にたくない…ってでも死んじゃいたい…って』





頭をなでていた手を

あたしの手の上に移動する。








ギュって握って

遠くを見つめて。











『…今は多分、笑えてると思うわ』





そう言ってごろんと寝転がった。









「…だからって、あたしのことかばわんといて」

『…』

「黒原がいじめの対象になったら、あたし…」







自分で言ってて怖くなった。











「…また、大切な人を傷つけることになる…」











もう、嫌やねん。












『…1人で戦うん?』

「今までそうやったから、もう慣れてんねん」






黒原はまた手をギュっと握りなおした。














『…忘れんといて、俺もおるってこと』

「…」

『…お願いやから、生きてて』















…氷がとけたみたいな感覚。












「…うん。ありがと…」






握り返した手は

温かかった。